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 肩の痛みに気付いて栄哲(ヨンチョル)は目が覚めた。
 上の方に見えるのは天井。自分は木の床の上に敷いた布団の上で横になっている。ここは家の中なのか。
 日が暮れて老木を出発した。青年の言う通り、1里ほど行ったところに村があった。そして、花。
 真っ赤だった、と思う。緑の棘のある葉に守られてほっこり咲いていた花は赤かった。
 慎重に周りの土から掘った。根を切らないように少し深めに掘る。そして、その赤い花びらに触れた途端。
「あら、気が付いたのね。貴方虎に咬まれたのよ」
 考えが途中で切れた。声のした方にゆっくり首を回す。そこには桶を手にした女性が立っていた。
 今まで見た中で一番綺麗な女性だった。真っ直ぐな黒くて長い髪を後ろで一つにまとめ、清潔そうな真っ白の服を着ている。
「助けてくれたのか?」
 あまりのことにそれしか言えなかった。そうだ。花に触ろうとした瞬間、肩に痛みが走ったのだった。そのまま気を失っていたのか。
「驚いたわ。家を出たら、うちの虎が人を襲っているのだもの。本当にごめんなさい」
「うちの、虎?」
「そうよ。飼っているの。でも人を襲ったのは初めてよ。いつもはおとなしいのに」
 そうだろうか。気を失う前に感じたのは紛れもなく殺意だったような気がするのだが。
「この薬草は良く効くの。一晩これを貼って寝ればすぐに良くなると思うわ」
 そう言って女は栄哲の肩に見たことのない葉を置く。虎の話はそこで途切れた。葉の上に水で濡らした冷たい布が置かれる。
「私はヨナと言うの。隣にいるから何かあったら呼んで」
 人を安心させる笑顔だった。栄哲はそれからもう一度眠りについた。
 遠くで声が聞こえる。隣の部屋でヨナが誰かと話しているのだろう。しかし、栄哲にはその声が聞き取れなかった。

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