# RYO


 昼休み、私は親友の里花と屋上で弁当を食べていた。まだまだ暑い9月とは言え、日陰に入ると、控え目にそよぐ秋風が肌に心地よくてなかなか過ごしやすい。『特等席』と言って里花に連れて来られたけど、確かに特等席だと思う。
「私の部活が終わるまで、いつもここで待ってたのね」
「2学期が始まってからね。図書館は目の色を変えた3年生でいっぱいなんだもん」
私の問いに、里花は少しおどけて答えた。その様子が余りに可愛くて、思わず笑ってしまった。
 でも本当に、女の私の目から見ても里花は可愛い。顔だけじゃなくて、嫌みのない女の子らしさも私は好きだった。自分が彼女にするなら迷わず里花を選ぶだろう。実際、クラスの男子も何人か彼女に好意を持っていた。この間も里花について話していたので、とりあえず悪い虫がつかないようににらみつけておいたっけ。とにかく、私の自慢の親友なのだ。
 横で小さく膨れる彼女を視線の端に認めつつ、改めて周りを見渡してみた。給水塔の陰になっているここからは、屋上の柵と空以外何も見えない。その分、いつもよりずっと近くに空を感じられた。真っ青な空に幾つか浮かぶ白い雲。そして、その下からは元気に動き回る生徒達の声が聞こえる。
 先に食べ終わった私は、里花のお弁当にほこりが入らないように静かに立ち上がり、残っていた紙パックのジュースを持って柵までやって来た。柵に手を掛けて下を覗くと、サッカーボールを追いかけている男子生徒の群れが目に入る。その中の一人に自然と目が行ってしまった。私の幼なじみである。格別格好良いわけでも、背が高いわけでもないが、その明るい顔と声は結構好きだった。あいつは日向葵みたいに太陽の下が似合う奴だなぁ、なんて柄にもなく思っている私の横で、何時の間にか横に来ていた里花が呟いた。
「正輝くんって、日向葵みたいだね。太陽が似合ってる」
驚いて彼女の顔を見つめてしまった。『正輝くん』とは、もちろん私の幼なじみのあいつのことである。私の視線に気が付いて里花が首をかしげた。
「私も里花と同じ事考えてたよ。日向葵みたいだなって」
私の説明に、不思議そうにしていた里花がにっこりと笑顔になる。つられて笑顔になってしまった私に里花がゆっくりと、言葉を選びながら話しだした。
「あの…実は、ね。私、正輝くんが好きになったの。そ、それでね。…椋っ お願いっ き、協力してっ」
再び驚いて彼女を見てしまった。顔を耳まで真っ赤にしている。何時になく真剣な、そして興奮した様子。普段あまり頼み事をしない彼女がここまではっきり私に頼るほど、あいつの事が好きなんだろう。それがよくわかった。のだが。
「…里花。あれの何処が良いの?」
小さくため息をつきながら尋ねる私。ちょっといじわるだったかな? でもね。大切なことなんだ。里花がどれだけ正輝のことを思っているか。里花は照れたときの癖で耳に手をやりながら、あいつの話をしている。それが又可愛くて。そんな里花を見ながら、私は二日前の事を思い出していた。
 二日前、里花は習い事があって、先に帰っていた。部活を終えた私はやはり運動部に入っているあいつと一緒に帰ることになってしまい、その時に正輝の、里花への思いを聞かされた。つまり、相思相愛ってこと。正直に言えば、すごく羨ましかった。どうしてかは分からない。四年前正輝に告白された時に、首を横に振ったのは私なのに……。正樹はあの時のことを真剣だった、と言ってくれた。それだけで嬉しいと思った。でも、あの時と同じ真剣さが今は里花に向いている。何だか寂しくて、その夜は疲れているのになかなか寝られなかった。
「……ちょっと? 椋? 聞いてる?」
 里花の声で現実に戻った。あぁ、そういえばあいつの何処が良いのか聞いてたんだっけ。
「ごめんごめん。ちょっとぼぅっとしてた」
「もぅ。椋らしくないよ。どうかしたの? もしかして、椋も正輝くんのこと好きだったりした?」
ドキッ。
「冗談は止めてっ 何が嬉しくてあいつなんか好きにならなきゃいけないの? 私の理想はもっとずっと高いわっ」
言いながら、私の胸はズキズキ痛んでいた。どうしてこんなに素直じゃないんだろう。
「椋、そこまで言わなくても…。いちお、私の好きな人なんだけどな」
そういえばそうだった。でも、私の気持ちを知られるわけにはいかない。もし知ったら、里花は私に遠慮をしてしまうだろう。そんなこと、させたくない。里花は、私の大事な親友だから。それに、正輝になら里花を取られても良いかな。
「あぁ、ごめん。心配いらないよ。ちゃんと協力するから安心しなさいな」
笑って答える。里花はよく気が付くから気を付けないと。二人の邪魔はできない。二人とも真剣に恋しているんだもの。私の幸せは、二人が幸せになることだ。でも本心は、初恋だった幼なじみと親友のどちらもなくしたくない、なんていう私の我がままなんだけどね。

 それから一週間後。私を仲介役にして、里花と正輝はつき合うようになった。たぶん、二人とも私の気持ちは気付いていないだろう。
 私はこのまま、最初の姿勢を保ち、自分の思いを黙り通すことにする。

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